研究概要 |
本研究の目的は, 薬物の組織移行の変動要因を生体機能の変動と連動させた定量的評価法を確立することにある. このために, 本研究ではβ-ラクタム抗生物質について, 1.腸管, 肝臓, 腎臓における細胞膜輸送機構, 2.血清蛋白結合機構, および3.組織分布の加齢変動の決定因子の解析とそのヒトへの外挿, の3項目について詳細な研究を行い, 次の結果を得た. 1.β-ラクタム抗生物質はジプペチド輸送担体に認識され, その一部のものはNa^十非依存的にH^十と共輸送によって小腸内に取込まれる. しかし, 肝臓と腎臓の細胞膜においてはジプペチド輸送系の関与がないかまたは少なく, β-ラクタム抗生物質は専ら有機アニオン輸送系を介してこれらの処理臓器から排泄されることを明らかにした. 2.一方, β-ラクタム抗生物質の非処理臓器への分布は, 1-100週齢ラットに共通して, 細胞間液中への局在化とここる存在するアルブミン(Alb)とのみ結合することによって決定されることを明らかに明らかにするとともに, この組織分布の機構を生理学的薬物速度論モデルに数式として組み込み, 1,7,50, 100週齢ラットにおけるセファゾリンの組織分布を予測することに成功した. またこの関係は, ヒト未熟児および小児においても正しく成立することを実証した. 3.加齢による抗生物質質の血清蛋白結合率の著しい変動は, ラットにおいては遊離脂肪酸/Alb濃度比の変動によって生ずるが, 未熟児においては間接ピリルビン/Alb濃度比の変動に起因することが明らかとなった.
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