研究概要 |
虚血性心疾患は心筋への酵素供給が不足して発症する. 従来この疾患の治療を目的として諸種の冠拡張薬が開発され応用されてきた. しかしその効果は古典薬物ニトログリセリンを凌ぐものはなかった. 狭心症の原因は冠動脈起始部から数センチ以内の太い冠動脈に器質的或いは機能的狭窄にある. 冠拡張薬は冠血行を増加する薬物と規定されるので, これは冠抵抗血管を拡張するのが必要条件であり, これら薬物の冠伝導血管に及ぼす効果について直接検討されたことはない. そしてこの伝導管の反応が狭心症発作の寛解に決定的要因となる. 本研究は冠血管の伝導部分と抵抗部分の血管反応を個別に同時計測することにより太い動脈と細い動脈の薬物反応の差異を明らかにし, 狭心症治療薬の必要条件を探索することが目的である. (1)ニトログリセリンは冠血管の増加を起こさず(抵抗血管の拡張を起こさない), 太い冠血管径の顕著な増大を呈することを明らかにした. (2)ニフェジピン, ニコランジル, ジルチアゼム, ジラゼフロ, アデノシン, ジピリダモールなどの血管拡張薬は抵抗血管, 伝導血管をともに拡張することを確定した. (3)エピネフリン, ノルエピネフリンは伝導血管を収縮し抵抗血管を拡張後収縮させた. プロプラノロール, エルゴノビンは伝導血管の収縮を呈した. フェノキシベンザミンは双方の拡張を起こした. 狭心症発作寛解には伝導血管の拡張のみを起こす薬物-これを今後 selective condcctive arterial dilator と称することを提唱する-が(2)の非選択的拡張薬よりも灌流圧を高く保つので治療効果が高い. 今後狭心症治療には伝導血管を選択的に拡張する薬物を開発する必要の有ることを明らかにした.
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