研究概要 |
受容体結合測定法を用いて, 高血圧自然発症ラット(SHR)と脳卒中易発性SHR(SHRSP)の延髄におけるα_2-アドレナリン受容体(AdR)を直接定量分析し, その性質を正常血圧のウィスター京都ラット(WKY)の場合と比較した. 〔実験成績〕(1)高血圧確立期(16〜24週令)のSHRとSHRSPの延髄におけるα_2-AdR数はWKYに比べ, 20〜30%有意に低値を示した. この延髄α_2-AdR数の低値は, 高血圧発現期(4〜5週令)の幼若SHRとSHRSPでも同程度観察された. またSHRSPの延髄背内側部と腹外側部で, 顕著なα_2-AdR数の低値が認められた. (2)幼若期のWKYとSHRSPにクロニジンを21日間経口投与することにより, 無処置と比べ, 血圧降下並びに延髄α_2-AdR数の有意な低値がみられた. またクロニジンを21日間投与後, 3日休薬することにより, 反射性高血圧が認められた. (3)延髄への高親和性^3H-ノルアドレナリン取り込み能は, WKYとSHRSPの間で差がなかったがSHRSPの延髄背内側部と腹外側部におけるノルアドレナリン量は, WKYより有意に低値を示した. (4)カテコールアミン作働性神経を特異的に破壊する6-ヒドロキシドーパミンを脳室内投与したWKYの延髄α_2-AdRは対照群より高値を示した. 〔考察〕 延髄背内側部の孤束核及び腹外側部の外側網様核に局在するα_2-AdRは, 末梢交換神経活性を低下させて, 圧受容体を介する反射性降圧効果に関与し, クロニジンの作用部位と考えられる. 従って, SHRとSHRSPで認められた延髄α_2-AdRの低値は, 交感神経活性を減ずる降圧性カテコールアミン作働性神経機能の低下を惹起することにより, 中枢性血圧調節機能に著しい障害を与え, 自然発症高血圧の発症及び維持に関与すると推定された. また, この延髄α_2-AdRの低値は, カテコールアミン作働性神経活性と関連した代償的変化, ないし高血圧による二次的変化というよりむしろ, 自然発症高血圧に特有な遺伝的変化であると考えられる.
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