研究概要 |
1.はじめに:本研究では, 多数の患者データを分析することにより, 次の3点を明らかにする. (1)脈波伝播速度の定義について再検討を行い, その意味を明らかにする. (2)脈波伝播速度に影響を与える諸因子を確定する. (3)前述の諸因子の影響を考慮した上で, 健常者と各種疾患の患者との間で, 脳波伝播速度に真の差があるか否かを調べる. 2.方法:対象は, 外来患者合計516名である. この内205名は心血管系に影響を及ぼすと考えられる疾患をもつ患者で, 内訳は虚血性心疾患が52名, 糖尿病が33名, 高血圧症が51名, 末梢動脈硬化症が4名, 先天性心疾患および心臓弁膜症が65名となっている. これらを患者群とよぶ. 一方, 残り311名は, 皮膚疾患などの治療目的で通院中の患者であるが, 心血管系疾患の既往がなく血圧, 心電図などにも特に異常を認めない被験者群である. 本研究では, 後者を正常群とみなして検討の対象とした. これら全例について, 脳波, 年令, 性別, 収縮期血圧, 拡張期血圧, 心拍数, 血清総コレステロール, リン脂質, 中性脂肪, β-リポ蛋白の各データを集めた. 脳波伝播速度は, 光電容積脳波計を用い, 手の指とと足の趾より記録した波形より求めた. 3.結果:脈波伝播速度とその逆数である伝播時間を比較すると, 後者の方が年令との相関が高く(線形性が良い), 分析に適していることが分かった. 伝播速度の周波数依存性が, フーリエ解析を利用した分析の結果, 認められたが, その臨床的意義を確認することはできなかった. また, 伝播速度に影響を与える有意な生理学的因子の組み合せは, 年令, 収縮期血圧, 拡張期血圧の3項目であることが分った. 最終的に, これら諸因子の影響を除いて求めた伝播速度および伝播時間については, 男女間および正常群と各疾患群の間で, 有意差を証明できなかった.
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