研究概要 |
女性の精神疾患として周産期精神病のブルー症候群を採りあげ, 雌マウスの分娩直後から授乳前期にかけて観察される攻撃性を主体とした行動変容を行動生物学的手法により解析し, 向精神薬の急性および慢性投与による影響を検討した. その結果, (1)雌親マウスの攻撃性発現には妊娠期における雄配偶マウスの存在と特性が重要であること, (2)妊娠期の雌マウスは隔離飼育の影響を受けやすく心理的不安を惹起すること, (3)社会行動における変容以外に穴堀り行動や立上り動作などの転位行動を示す例があること, (4)雌マウスの攻撃行動には警告や威嚇の行動様式が先行せず常同的・強迫的な要素が観察されること, (5)雌親の攻撃性は分娩後9日目までは比較的安定してみられるが離乳後は消失することなどが明らかとなった. これらの実験成績から, 雌マウスを4日間の交尾期間後単独で隔離飼育し, 分娩後5日目と7日目に雄侵入マウスに対する敵対行動を観察する方法を確立した. 各種向精神薬の急性・慢性効果を検討した結果 (1)抗うつ薬は三環系・非三環系先に雌親の攻撃性を抑制し, 妊娠期の慢性投与によっても抑制効果が認められること, (2)ベンゾジアゼピン系抗不安薬は雌親の攻撃性を亢進し, 非ベンゾジアゼピン系抗不安薬は用量依存的な抑制効果を示すこと, (3)抗精神病薬は急性投与では有意な抑制効果を示すが, 慢性投与では逆に増強傾向が認められること, (4)薬用人参粗サポニン分画およびginsenoside Rblには雌親の攻撃性を抑制する作用が認められ, 慢性投与でも有効であった, (5)5+HTAl-receptor agonistの8-OH-DPATおよびSM-3997は, 雌親の攻撃性を用量依存的に抑制する作用があり, 攻撃性発現の神経機序に脳内セロトニン神経系の関与が示唆された. 本研究の成果から推察すると, 雌親マウスの分娩直後からの行動変容は, ヒトの場合に類似して, 抑うつ状態を反映しているものと考えられる.
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