研究概要 |
まずI型糖尿病患者で, 膵島細胞抗体(ICA)と膵β細胞機能に関して, prospectiveな検討を行なった. 40例のICAが陽性を示すインスリン非依存状態の糖尿病患者(NIDD)および体重, 性, をマッチさせたICAが陰性のNIDD患者70例を対象とした. 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)により血中C-ペプチド(CPR)の経時的推移を観察し, 遺伝因子の影響をみる目的でHLAも同定した. この結果, 40例中10例において観察開始後平均15ヶ月で, ICAが陰性化した. これらの例ではOGTTの際のCPR反応が改善した. 一方残りの30例においてはICAは持続陽性を示し, うち10例がCPR反応が徐々に低下し, インスリン依存性の糖尿病まで進行した. これら30例におけるHLA-Bw54およびDR4の出現頻度は, 正常者に比し高頻度であったが, 先のICA陰性化例では正常者との間にHLA頻度の差をみとめなかった. 以上の成績より, (1)ICAの出現とI型糖尿病の進行もしくは改善には密接な関連があること, (2)HLAも遺伝因子として, I型糖尿病の進行に不可欠のものであることが明らかとなった. 次いでICAの産生機序を明らかにする目的で10例のI型糖尿病患者剖検膵組織におけるリンパ球サブセットを検討した. ICAが陽性例においては(1)β細胞の若干の残存がみられ, 加えて膵外分泌腺を主体としたリンパ球浸潤がみられた. このリンパ球のサブセットは大部分が, CD-8(suppressor/cytotoxic Tcells)であった. CD-4もしくはβリンパ球はほとんどみとめられなかった. ICA陰性のI型糖尿病例にはリンパ球浸潤はみられなかった. 以上の成績より, I型糖尿病の際の膵組織の主体はsuppressor/cytotoxic Tcellsであることが示唆された. 今後ICAの抗原の検索を行ない, さらにICAの産生機序の詳細を明らかにする必要がある.
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