研究概要 |
マウス乳児下痢症(EDIM)は, ロタウイルスを病因とする疾病で, 哺乳マウスの生育を著しく阻害することが知られている. 近年, 人や家畜のロタウイルス性下痢症が注目されており, マウスでもEDIMの意義を解明することは興味ある主題となって来た. 本研究では, 我ケ国の実験用マウスコロニーに於けるロタウイルスの伝播と持続の様式を調べ, 将来の予防対策の基礎資料を得ることを目的として行った. はじめに血清疫学的調査を行う為に, 猿ロタウイルスSA11株を用いる酵素抗体法の条件を決め, 次いで日本国内の5つの実験動物施設から集めたマウス血清中の抗ロタウイルス抗体の測定を試みた. EDIMの流行が観察された1施設由来の血清では, 下痢の認められたC3H系力板マウスで, その他の系統のマウスニ比べ有意に高い抗ロタウイルス抗体陽性率が認められた. 一方EDIMの流行が報告されていない他の4つの飼育施設では, そのうち3施設のコンベンショナルマウスで, 数%程度の抗ロタウイルス抗体陽性血清が検出され, これらの施設におけるロタウイルスの不顕性感染が示唆された. 実験的にマウスに寒冷ストレスを与え, コンベンショナルな環境で飼育を続けると, 下痢は認められなかったが, 10数%の抗体陽性マウスが半年環に渡って認められた. また実験的にSA11株を感染させたマウスでも, 里親を付けて哺乳条件を良くすると不顕性感染が成立し, 血清抗ロタウイルス抗体および糞便中にロタウイルスが検出された. さらに人ロタウイルス(血清型4)をマウス乳児に接種したところ, 血清抗体のみが検出され, 不顕性感染の成立が疑われた以上の結果から, コンベンショナルな飼育環境下ではマウスにロタウイルスの不顕性感染が成立する可能性があり, マウスコロニーの持続的汚染に繋がるものと予測された. 今後は, 我々の酵素抗体法を用いてマウス血中抗ロタウイルス抗体の監視を行うことが課題と考えられる.
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