研究概要 |
味噌は日本人に古くからら愛用されてきた調味料の1つであり, 特有の風味と調味機能を有している. 従って, 味噌に関する研究は, 種々の見地から幅広く行われてきた. 味噌汁を飲む人は罹がん率が低いという疫学的調査に基づき, 近年, 味噌中に含まれる生理活性物質の検索が行われ, 抗変異原性物質としてリノール酸メチルが報告されている. 本研究においても, 同様の観点から, 味噌中におけるアルカリプロテアーゼインヒビター(APIと略記)に着目し, これを精製し, 諸性状を調べるとともに, 抗微生物試験及び卵割阻害試験を行って生理活性を検討した. まず, 火入れをしていない江戸味噌及び西京味噌につきAPI活性を調べた結果, 粗抽出液を80°Cで20分間加熱することによりAPI活性が現われることが判明した. 次に, 味噌の原料となる米麹, 加熱大豆及び加熱米についてもAPI活性を調べ, 味噌中のAPI活性は米麹由来のものであることが明らかとなった. 米麹中のAPIはパパインの酵素活性をも阻害した. 米麹中のAPIは, SephadexG-50ゲルろ過およびDEAE-トヨパール650Sにより更に精製を行った. 精製したAPIは分子量約20,000,pI=5.6であった. また, 70°C, 30分の加熱では活性はほとんど変化せず, 100°C, 20分の加熱でも約76%の活性が残存しており, 熱安定性が高いことが認められた. 至適pHは9付近であり, pH7〜11の範囲では比較的安定であった. Bacillus subtilus,E.coli,Penicillium chrysogenum等8種類の微生物を用いて抗微生物試験を行ったが, 活性は認められなかった. しかし, イトマキヒトデの授精卵に対し, 32-64分割期の卵割が阻害されることが明らかとなった. 以上より, APIはDNA合成阻害作用を有しており, 味噌汁中にAPI活性が残存していることを考え合わせると, APIの体内における生理機能が注目されるところである.
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