研究概要 |
昭和61年度は暑熱炎天下でのエジプトやスーダン地方の民族服である貫頭衣の温熱生理学的特徴を明らかにして, その成果は家政学会誌に印刷中である. 昭和62年度は-10°Cの厳しい寒冷下で中国の東北地方の民族服をとりあげその衣服気候, 温熱生理の実体を明らかにすることを目的とした. 被験者はまず25°Cの中性温度域に入室し, 直腸温を自から挿入し, その後, 皮膚温(額, 胸, 背, 大腿, 下腿, 足背, 前腕, 手背)および衣服内気候を測定するセンサーが固定された. 次に民族服を着用し安静を保つ. 30分後-10°Cに調節された部屋に入室し, 30分間安静を保った後, 30分間高さ30cmの踏台昇降をおこなう. その後再び30分間安静を保った後実験を終了する. 実験用衣服は次の通りである. (1)長袖の肌シャツ, パンツ, ズボン下(いずれも綿)(2)長袖シャツ, 長ズボン(いずれも羊毛)(3)旗袍型上衣, 筒〓子の下衣(綿入れ)(4)表衣は綿でその裏側に毛皮のついた大衣(オーバー)重さ4kg(5)頭部に目出し帽, 足部に綿のパイル織靴下2枚, 布靴(6)手袋として表側に合成皮革, 裏側に毛皮のついたミトン. 主要な知見は次のようにまとめられる. (1)直腸温は-10°Cの寒冷室に入室しても全く変動せず37°Cに維持された30分の運動により0.3°C上昇し, その後の30分間の休息により0.4°C下降した. (2)平均皮膚温, 寒冷下で32°C, 運動により33.6°Cに上昇し, 回復中に下降し32°Cに戻った. (3)背部中央で測定した再内層の衣服内温度および背部皮膚温は寒冷下安静時において, それぞれ32°C, 34°Cであり運動中の最高レベルは, それぞれ36°C, 36.9°C回復期は, 最終的には, 31.3°C, 32.6°Cとなった. これらの知見から考えられることは, 背部の衣服内温度が運動中, 背中皮膚温より0.8°C高くなったことで示されるように防寒上極めて優れた性質を保有していることである. このことは, 直腸温の下降が全く下降しなかったことからもわかる.
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