研究概要 |
目的:一般成人女子を対象に除脂肪体重が最大酸素摂取量と同様、重力に対する耐性能力の重要な要因となるかについて検討した。 方法:健康な成人女子10名、水中身体密度法により脂肪率を測り、下肢陰圧ボックスを用い重力を負荷した。下肢陰圧の耐性の基準は心拍数が仰臥位安静時レベルよりも20bpm以上増加し脈圧20mmHg以下に減少するか被検者が少しでも気分が悪くなったと感じた時点とした。実験は5度のHead Down Tiltingの状態で6時間の安静後、NASAの下肢陰圧テストを負荷し耐性基準値に達成した後その陰圧下で10分間、40%V【O_2】maxのペダリング運動を行い更に陰圧を解除し5分間同じ運動を継続した。 結果と考察:下肢陰圧耐性圧と最大酸素摂取量(V【O_2】max)とは有意な相関があり除脂肪体重(LBM)とはなかった。下肢陰圧耐性時間に対し、V【O_2】max,LBM共に有意な相関関係にあった。下肢陰圧下での運動中と陰圧解除後の運動中間で動脈血圧,前腕血流量,酸素摂取量,心拍数を比較すると、拡張期血圧,収縮期血圧,平均血圧共に解除後の方が有意に高かったが、脈圧の変化はほとんどなかった。前腕血流量は解除後有意に上昇した。V【O_2】は解除後に増加する傾向にあったが有意ではなく、心拍数は解除後有意に減少した。以上の結果6時間のHead Down Tiltingで無重力刺激に心臓血管系を適応させた状態にすると、重力耐性は低下する。無重力刺激に対する生理的適応が交感神経系の感受性を高め、重力耐性を低下させることを示唆する。また重力に対する循環失調が起きた後、下肢運動を行うとその失調からの回復が極めてすみやかになる。心臓血管系の重力耐性とLBMの関係は、筋量が交感神経系の重力に対する感受性に影響し、重力耐性を高める因子になることを示唆する。
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