研究概要 |
本研究は, 生物界に多様な形で存在する糖タンパク質の中でも, 特に糖含量が高く, シアル酸の結合により分子全体として強い酸性を示す高分子が持つ生物学的機能を分子レベルで解明することを目標とする. 研究対象として研究代表者自らが発見した新しい型の酸性高分子である魚卵シアロ糖タンパク質を選び, 化学と生物学の両側面から進められた研究成果の概要を記す. 1.ニジマス末受精卵のポリシアロ糖タンパク質が, 受精直後に著しい低分子化(分子量200K→9K)を起こす現象を見出し, それが特定のペプチド結合の切断に由来するものであることを明らかにした. 2.ニジマス未受精卵が受精後活性化される過程で見られる顕著な形態変化と, ポリシアロ糖タンパク質の低分子化が, 時間的・空間的に一致していることを明らかにし, ポリシアロ糖タンパク質の局在部位を推定すると共に, これが卵活性化と密接な関係をもつ分子であることを示した. 3.未受精魚卵に特有な細胞内小胞である表層胞を単離することに成功し, その形態を電顕観察すると共に, 単離した表層胞にポリシアロ糖タンパク質が局在することを解析した. 更に, 受精卵特有の形態である囲卵腔の中に低分子化されたポリシアロ糖タンパク質が局在することを明らかにした. 囲卵腔は, 発生中の胚を外的環境から保護する形態である故, 低分子化ポリシアロ糖タンパク質の機能の一つが, 胚の保護であることが証明された. 4.ポリシアロ糖タンパク質は, サケ科魚卵に遍在するが, 産卵環境を異にする数種の魚類(アユ・コイ・ウグイ・ヒラメ)について調べたところ, 全ての魚種に表層胞局在糖タンパク質の存在が証明された. それらは, いずれも受精後に単位構造に低分子化される. 糖含有量が高い(85〜90%)という点では一致しているが, 糖鎮構造は魚種により大きく異なっていた. シアル酸の存在比は産卵環境によって異なった.
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