研究概要 |
神経系におけるガングリオシドの局在は深く関心がもたれているにも拘わらず, 脳の機能との関連に立つ詳細な研究はこれまでみられていない. そこで本研究では(1)脳の極めて多様性に富むガングリオシドの分離分析, 調製法の優れた方法を開発し, (2)その方法を用いて脳シナプス機能との関連で, シナプス局在ガンクリオシドを明らかにし, (3)シナプス機能の加齢による低下とシナプス膜ガングリオシドの変化との相関を探り, (4)アセチルコリン放出などのシナプス機能のガングリオシド添加による修飾の可能性を検討した. ガングリオシドの分離分析, 調製法に関しては, 特に定量的な取り扱いと, 不純物混入を減らす方向で新しい手枝の開発をした. 主要な点は, 調製のために新しいイオン交換樹脂を用いたことと, 分離分析のために高速液体クロマトグラフィーを用いる新しい糸をつくったことである. ガングリオシドのクロマトグラフィーでは薄層クロマトグラフィーもよく用いられているので, 高速液体クロマトグラフィーと両方に利用できる溶媒系を開発した. シナプス機能とガングリオシドとの関係では, シナプス膜のガングリオシド量が若齢でもっとも多く, 成熟期に急速に減少することを見い出した. ガングリオシド減少の時期に一致してシナプス膜の流動性が低下することがわかった. シナプス膜の膜流動性の変化には, コレステロール/リン脂質はあまり寄与していないようであった. 膜流動性が低下すれば, シナプスからの伝達物質の放出が減少すると予想されたので, アセチルコリン放出をみるとやはり加齢で落ちていた. そこで, 老齢脳シナプトゾームにガングリオシドを添加したところ, 膜流動性の上昇がみられた. 本研究の成果で重要な点は, ガングリオシドが脳シナプス膜の流動性を変えることによって神経伝達物質の放出効率を調節していることと, ガングリオシドによって神経機能を修飾できる可能性が示されたことである.
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