研究概要 |
白血病HL-60細胞はジメチルスルホオキシド,レチノイン酸等で顆粒球に、ホルボルエステルTPAによりマクロファージに分化する。ミエロペルオキシダーゼは顆粒球-マクロファージー系細胞系譜の細胞にのみ存在するヘムタンパク質である。この酵素はHL-60細胞で盛んに合成されているが、分化誘導にともない合成されなくなる。本研究の目的は、HL-60細胞の分化誘導にともなうミエロペルオキシダーゼの発現停止の機構を解明することである。 本年度は、HL-60細胞のcDNAライブラリーをPBR322で作製し、これを合成プローブを用いて検索し、ミエロペルオキシダーゼcDNAクローンを単離した。cDNAの塩基配列は、cDNAの制限酵素断片をM13にサブクローニングし、ディデオキシヌクレオチド法で決定した。 得られたcDNAクローンは1278塩基対で構成され、ミエロペルオキシダーゼのカルボキシル末端158アミノ酸残基をコードしていた。cDNAの3部位804塩基対は翻訳不能な塩基配列であり、18個の翻訳停止コドンやpoly(A)添加に必要なシグナルを含んでいた。このcDNAをプローブに用いて、RNAのノーザンブロットから算定したミエロペルオキシダーゼmRNAの鎖長は、約3.3K塩基であった。またHL-60細胞のミエロペルオキシダーゼmRNA含量は、顆粒球あるいはマクロファージへの分化誘導により数パーセントに減少した。この結果は無細胞翻訳系を用いて定量した翻訳可能なミエロペルオキシダーゼmRNAが分化誘導の初期に減少するという以前の事実とよく一致する(Kasugai and Yamada,1986)。 ミエロペルオキシダーゼmRNAの減少がRNAの分解の促進によるのか合成の停止によるのか不明である。現在cDNAを用いmRNAの減少の機構を追求している。
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