研究概要 |
河川を溜池卓越地域へ分水する利水計画は, これまでその実現が甚だ困難なものであるといわれ, 吉野川の香川分水と紀の川の奈良分水のみが知られてきた. その最大の理由は, 河川分水点の上下流間に新たな支配・従属の関係を設定するからである. 本研究は, 我が国において最大の溜池卓越地域である播州平野において, 明治期の淡河川・山田川疎水事業と現在の東播用水事業の成立に共通する分水の実現条件を明らかにしたものである. 淡河川・山田川疎水事業については, 水利土功会・水利組合議事録・設計書を用いて分析した結果, その成立要因として既往の利水の水車補償・分水側の潅漑期間の制限による水利調整・技術移転による御坂サイフォン建設・明治政府の勧農政策・工事費調達等を分析し, 分水事業が水源地域の下流部対策によって規定されることが明らかになった. なお, この疎水事業が分水に起因するが故に, この受益地域で溜池を潅漑用水源として存続させている点も重要な知見である. この点が毎稜疎水・明治用水の地域との相違点である. 現在, 淡河川・山田川疎水受益地域に展開する東播用水事業を, 分水事業の点ではこの明治の疎水事業と共通している. その要となる加古川大堰と呑吐ダムの水没補償について実態調査を行った結果, 次のことが明らかになった. 東播用水は加古川下流部に古田優位の水利権をもつ五ヶ井・上部井両堰の取水量を25m^3/sから8m^3/sに変更することで水源手当が可能となったもので, そのためには, 両堰の用水合口=加古川大堰の建設が必要条件であること, また, その大堰建設には両堰の水利団体が用水合口に妥協するに足る国費・技術などの外部的条件が必要であることを明らかにした. なお, 呑吐ダムの水没補償の実態調査の結果, ダム建設の成否も水没者の生活再建措置を中心とした補償のあり方に規定されることを明らかにした. 下流部対策による水利調整こそ分水実現の共通点となる.
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