研究概要 |
稲作の後退などによって過剰化した農業用水あるいは農業水利施設の他用途への転用・活用に係る一般的・地域的諸条件を、その農業用水それ自体としての保全の可能性と関わらせながら解明するために、(1)埼玉県の葛西用水地域,(2)愛知用水地域,(3)奈良盆地,(4)香川用水地域,をフィールドとして調査・分析を行ない、これまでのところ、次のような知見を得た。 1.葛西用水地域は首都に近接した河川灌漑地域で、近年農地濱廃による土地改良区の財政基盤の弱体化が著しく、農業水利施設の維持が困難になり、都市側も費用負担する「農業用水合理化事業 の実施により生じた余剰水の都市用水への転用が行われた。「合理化 の一環として行われた用水路のパイプライン化は、兼業化による土地利用粗放化を防ぐ役割を果たしている。 2.愛知用水はほんらい農業用水主体の事業として計画されたが、受益地域の都市化に伴い都市用水中心の事業に計画変更された。ここでは都市用水需要が今なお伸張しつつあるが、農業用水需要も、農業生産の後退にも拘らず用水管理の粗放化のため、必ずしも減退していない。従って用水内部でのさらなる転用は容易ではない。 奈良盆地を特徴づけてきた大小無数の溜池のなかには、都市化に伴う受益農地の減少によって維持困難となっているものが少くない。このなかで市町当局と水利組合との間に、溜池を洪水調節に用いる協定が実現している事例が注目される。1982年水害がその実現の契機となった。 4.讃岐平野の溜池地帯に香川用水が導入されて、渇水の危険は緩和されたが、農業用水・都市用水ともに、在来水源の利用が著しく粗放化する傾向がみられる。ここには古くから溜池の多目的利用の伝統があり、その積極的な再評価が求められる。
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