研究概要 |
節足動物ヘモシアニンの酸素結合における協同性機構を考察するために, イセエビ・ヘモシアニンを用いて, 酸素結合に伴う蛋白質構造の変化を検出し比較する試みを行なった. 色素結合法では, すでにカブトガニで得られた結果と同じく, 平均の酸素結合度よりもかなり先行する構造変化があることがわかった. また, 近紫外域の差吸収スペクトルで観測される構造変化はサブユニット会合にかなり依存するにもかかわらず, 酸素飽和度に比例した大きさを示した. この変化は酸素結合部位の近くにある芳香族残基(多分トリプトファン)の周囲の変化に対応しているのではないかと推定される. このようにまだ二つの方法でしか結果が得られておらず, 協同性機構を云々するには早すぎるかもしれないが, たがいに相異なる結果が得られたことは興味深い. このことは, 二つの方法では蛋白質の違った場所の構造変化が観測され, それらが同時には起こっていないことを示しているように思われる. 色素結合法では蛋白質の表面近くの構造変化がとらえられているはずであり, 一方, 近紫外差スぺクトル法では, より蛋白質内部の構造情報が得られているはずである. 今回得られた結果は, 協同性を示す蛋白質では表面近くの構造変化が内部よりも先んじて他のサブユニットに伝えられることを示しているのかもしれない. このことは, いわゆるアロステリック蛋白質における情報伝達機構を考えるうえで興味深く, さらに検討を加える必要があると思う.
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