研究概要 |
最近, 化学における実験の時間が減少している. 特に大学では時間や学校の設備から実験が避けられる傾向がある. しかし本来化学は物質を対象とした学問であり, その学習のために実験は切り離せないものと考えられる. 本研究は一般教養の化学に, 天然物の分析の実験を中心とした授業を展開し, それが化学本来の姿を学ぶ事にどの程度の有効性を持つかを研究することにある. 実験対象としては, 学生の身近な物質を用いることにした. 例えばミカン, レモン等の柑橘類やその他の果実, 種々のハーブ類である. 研究は一般化学の授業と教養演習の2つのクラスを対象として行なった. 一般化学の授業では, 講義時間の全てを実験にあてることは不可能であるので, 植物を構成する多くの成分の内の特定の成分(主に油脂)の分析を中心とした実験を導入した. 教養演習の授業では主に柑橘類の構成成分の分析実験を行わせた. 天然物の分析実験には, 化学実験で使われる全ての操作が含まれる. 抽出, 蒸留, 分別結晶, クロマト等である. その多くの操作を通じて学生は化学の基本的概念を学ぶことが出来る. 学生達は香りや油脂の成分が多くの物質の混合物であることに驚きを感じると同時に大変興味を示した. またGLCを使用した分析において, 液層や検出器の相違により得られる結果が異なることにも興味を示した. このことは大変重要であり, ある結果を導きだすためにどんなことをすべきかを考えるための良い訓練になった. いくつか問題点があるにしても(後述), 2年間の研究の結果からは, 天然物を対象とした実験の一般化学への導入は, 学生達の関心度も高く, また彼らに正しい物質感や自然科学的思考法を学ばせるうえにおいてかなり有効性の高いものと考えられた. なお, 問題点としては, 溶媒をかなり使用する事(安全性, 経費)や数種の分析機器の必要性(設備)等がある.
|