研究概要 |
電子を利用した表面の構造解析は, 当初LEEDが瀕用されたが, その理論的取り扱いの困難さのため, 現在では, RHEEDが主流となっている. 本研究では, 理論的取り扱いが容易で, かつ, 表面構造により敏感であると考えられる超低エネルギー陽電子回析装置(ULEPD)の試作を目的としている. LEEDと比較して, ULEPDの利点は, 陽電子出は多重散乱の少ないこと, 交換相互作用のないこと, 内部ポテンシャルが略ゼロに近いこと等が挙げられる. 本研究では, 以上述べたような特徴のある超低エネルギー陽電子回析装置を試作し, 設計研究を行った. 静電集束型の陽電子集光レンズ系の設計計算および試作を行った. 集光レンズ系は, 円筒型静電リングから成る2体レンズ, 対称型アインツェル・レンズ, 非対称アインツェル・レンズで構成した. 陽電子の引き出し用には, Soaにより考案されたレンズ系を採用した. このSoa銃は, 広いレンジにわたって集光性の良いことが確認された. Soa銃以降の軌道計算は電子光学で利用されている変換行列の方法により行った. Soa銃からCMA入口迄の軌道, CMA出口から第1段再減速材迄の軌道, 第2Soa銃から第2段再減速材迄の軌道, 第3Soa銃から最終ズーム・レンズの入口迄の軌道, ズーム・レンズ入口から試料位置までの軌道について計算を行い, 35個の円筒電極に供給すべき最適電圧を決定し, これにもとづいて集光レンズ系を試作した. この電圧配置で, 発散角を1.15度とすると, 1eVで1.7mm, 10eVで0.5mm, 100eVで0.17mmのビーム径となることが判った. 超低エネルギー陽電子回析の測定として, 予備的に, BaF2シンチレータと光電子増倍管により, Cu(100)面について, ガンマ線計数率を陽電子の入射エネルギーの関数として測定したところ, ブラッグ条件に対応するエネルギーで計数率の減少が見られ, 陽電子回析装置として有効に機能することが確認された.
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