研究概要 |
電子スピン共鳴法(以下ESR)は近年その測定手法を従来の線形から非線形領域に拡張し、複雑なスピン系の拳動を観測、解析するに到っている。本研究では、飽和現象や高速掃引によって誘発されるスピンの飽和移動ESR信号の非線形性に着目し,このような場合の信号の観測法の確立と機器システムの開発を目的としている。すなわち非線形応答の場合、ESR信号は参照波に対して振幅ばかりか位相にも変化が現れ、それゆえ、観測された信号はベクトル量となる。したがって飽和移動ESRは、ベクトル概念によって、再構成されなければならなくなり,その結果、次に示すようなシステムの構築と研究の成果が得られた。 1.位相を連続的に変えることにより、第一と第二高調波信号を自動的に測定可能な信号検波システムを構築した。すなわち、位相可変を行うオートフェーズコントローラーを既存のセカンド・ハーモニック装置に付設し各位相における信号をAD変換器を通して高速データ処理システムに蓄積する。位相を信号として取出するためにS/N比の良い信号とするために加算平均やフーリェ・フィルタリングを用いた。これらの操作を、最低0.1Gaussごとに共鳴磁場を掃引させながら実行する。この時,磁場のディジタル制御が必要となり,自動磁場掃引コントローラを用いてデータ処理システムとオンラインして遂行した。 2.ベクトル信号の観測を振幅と位相成分の分離により、又、ベクトル積分によって、正位相と90°位相おくれ成分信号を独立に求めた。すなわちフーリェ級数展開ないし、最小二乗法によって、任意の変調周波数に対する高次高調波の分離を,データ処理システムを併用して実行した。この手法を脂質膜、メト・ヘモグロビン及び電気伝導性高分子に応用し、遅い運動とゆらぎの精密な測定が可能となった。
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