研究概要 |
本研究は, 2年間にわたって, 3次元ネットワークモデルによる火災時の避難シミュレーションシステムの開発, ならびに現実の建築物に対するシステムの適用性の検討をパソコン上で行なったものである. 開発したシステムが他の研究機関における従来からのシステムにまさる点は, まずモデル的には, (1)3次元ネットワークモデルの導入により上下階のつながりを容易に考慮できること, (2)あともどり行動や煙に対する拒否反応といった避難行動のルールを導入することにより現実により近い状況が再現できること, などから実際の火災時における避難行動をよりリアルに表現できる点であり, またシステム的には(3)パソコンによる対話形式で操作できるためデータ入力やシミュレーション実行時の操作性がよいこと, (4)実行結果のグラフィック表示により専門家でなくても容易に理解できること, などから設計へのフィールドバックならびに一般への啓蒙が可能である点である. 一方, このシステムを用いて, 過去に火災を起こし死亡者を出した6つの宿泊施設に対してシミュレーションを行なった結果からは, (1)特殊なケースを除けば, 通常の避難階段からの避難行動だけでなく窓への避難など, 実際に起きうる火災状況をよく再現できている, (2)避難階段の増設やバルコニーの設置などの防災対策を施すと死者数の減少がみられるなど防災対策の有効性を検討できる, などシステムの建築物への適用性が明らかになった. 以上のことから, 設計段階の道具といった実務面だけでなく, 一般への防災意識の向上・啓蒙に十分活用できるシステムを完成したと言え, 当初の目的はほぼ達成されたと考えられる. ただし, 避難開始時刻を変化させてみると, 必ずしも早期避難が安全とは限らないことから, 火災状況にそった避難誘導方法の開発, 導入が, 今後の課題である.
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