研究概要 |
人間の生活環境との接触の度合いを異にする各種哺乳類, 鳥類及び魚類の糞便から薬剤耐性大腸菌の分離を行い, その分離頻度と動物の人との係わりの度合いとの関連を解析し, 薬剤耐性大腸菌が人間活動による自然環境の汚染をキャッチしうる新しい生物指標になりうるか否かを検討した. (1)岐阜県山岳地域で捕獲された野性のニホンカモシカ527頭及び捕獲後1日から6年10ケ月飼育されたている33頭, (2)大分県の山岳地域で射殺されたツキノワグマ1頭と熊牧場で飼育されている5頭及び動物園のヒグマ1頭, (3)演習林のアカネズミ5匹と市内のドブネズミ177匹, (4)その他野性のタヌキ, キツネ, リス計5頭, 施設のサル98頭, (5)演習林の小鳥11羽と市内のドバト278羽, 愛玩鳥247羽及び(6)演習林の渓流の魚8匹, 他の渓流の魚10匹, 市内過疎地と市街地の川の魚計174匹を検索した. その結果, どの動物種においても山岳地域に生息する野生動物からは薬剤耐性大腸菌は殆ど検出されず, 予め抗菌剤を添加しておいた培地に糞を濃厚に塗抹して培養することで, 僅かに検出できたに過ぎない. 得られた耐性菌にもRプラスミドは全く検出されなかった. しかしこのような動物が人の生活環境で飼育されるようになると, 素早く耐性菌を獲得する. 市街地に生息する動物では人畜に多用されたSM, TC, SAに対する耐性菌が高頻度に分離され, 魚の場合はこれら3剤よりPCに対する耐性菌が多かった. またRプラスミド保有菌も高率に分離された. 従って, このような薬剤に対する耐性大腸菌の保有の有無を調べることによって, その動物が生息している環境が, どの程度人間の生活活動の影響をうけているかが類推できる. 以上のことから, 動物糞便中の薬剤耐性大腸菌が, 人間活動による自然環境の汚染を早期にキャッチしうる新しいミクロの生物指標として十分利用可能であることが立証された.
|