研究概要 |
自然界においてはあらゆる生体ホメオスタシス系の最終目標は, 単に各々の系の調節量を一定に保つ事にあるのではなく, 生体のおかれた環境状況において, 他の調節系のドライブを含めた総合的な適応にある. 本研究の目的は複数の環境適応行動の中枢機能連関解析が可能な行動研究装置を開発する事である. 本研究において試作したシステムは, 動物で複数の環境適応行動(体温, 摂食, 飲水など)のオペラント行動ができる性能を備えている. そして, 次の様な特徴をもたせようとした. (1)動物のオペラント出力として, レバー押し, 音声, 心拍数変化の3つを併用できる. (2)行動の報酬として, 温度, 固形餌, ジュース, 水, 脳内報酬系刺激を併用できる. (3)自動訓練システムを備えている. (4)脳ニューロン活動を同時記録できるようにして, これら動機づけ行動と対応させた解析を行う. 音声認識がサルを用いる為, 十分な検討を行なっていないが, 各部分の動作は満足すべきものであった. 本装置の一部を用いて, 次の2つの研究を行なった. (1)サルにおいて, 体温調節, 摂食及び飲水行動時の視床下部分及び眼窩前頭野のニューロン活動を記録解析した. その結果, 視束前野温度ニューロンは, レバー押し期応答と報酬期応答の2つの主な応答を示し, 前者は動機づけの強さに依存し, 後者は報酬的価値の変動により左右される事が明らかになった. また, 体温調節行動時に活動変化を示したニューロンのうち, 半数が同様のバー押し摂食行動時にも応答した. 以上の事から視束前野温度ニューロンは, 単なる温度情報処理のみならず, 行動の動機づけ, 動因の維持, 報酬認知などにも関与し, また摂食行動の何らかの過程にも関与している事が明らかになった. (2)白金イリジウム線埋込みにより, 自由行動下のラットの視床下部ニューロン活動を記録, 解析し, その基本的性質を明らかにした. その事により本システムへの応用への途も拓いた.
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