研究概要 |
高電圧パルスによって細胞膜離断を起こさせ, それによって発生する細胞膜穿孔から遺伝子を移入する方法, すなわち電気的遺伝子移入法に関し, 高電圧パルス発生装置の改良と, それを利用した遺伝子導入に関する基礎的検討を行った. 高電圧パルス発生装置としてはコンデンサー放電方式とパルス・トランス方式の2種があるが, 前者は短形波波形が得られにくいうえに出力インピーダンスが周波数に依存して変化するという欠点がある. 一方, 後者は短形波波形を持つパルスが得られやすく出力を得ることが困難であり, また短時間のうちに複数回のパルスを発生させると出力電圧が次第に低下する. そこで, パルス・トランス方式とコンデンサー放電方式を組合わせた新しいタイプのパルス発生装置を作製した. この装置では上記両方式の欠点が相殺され, 任意(0〜3KV)の短形波パルス(10〜200μsec)が安定して得られる. この装置を利用して, 次のような実験系で遺伝子移入の効率を検討した. 主に用いた細胞は免疫グロブリン入鎖のみを発現しているミエローマJ558Lである. NP(4-hydroxyl-3-nitrophenylacetyl)特異的IgM抗体のμ鎖遺伝子含むプラスミッドDSVVμ1(大きさ約20KD)を移入した. 電圧は3KV/cmまでは長いほど効率が良かった. これらの値を越えると効率は低下した. 3KV/cm, 150μsecでは, 浮遊細胞に対して最も効果的であるとされていたプロトプラスト融合法と同程度であることが示された. マウスT細胞ハイブリードマ, さらに遺伝子移入が困難とされていたヒト系列白血病細胞への遺伝子も成功した. 方法をさらに改良すれば, 正常細胞への移入も可能になると考えている.
|