研究概要 |
本研究はヒト癌を対象に発癌における原因突然変異と染色体再構の実態を追求してきた. 網膜芽細胞腫の発生に関係する遺伝子のcDNAを用いて骨肉腫のDNAをサザン法で分析した結果, 網膜芽細胞腫も骨肉腫も同じ突然変異によるが, 染色体のホモ接合化は両者で異っている. 多内分泌腺腫瘍症MEN2Aの原因遺伝子は#10染色体に座位するが, 随伴腫瘍の甲状腺髄様癌化現象は必ずしも原因突然変異の指標とならず癌の増殖など続発変異としても重要であることがわかった. 横紋筋肉腫および子宮頚癌の細胞に#11染色体を導入すると造腫瘍性が抑えられ, 発癌における欠失突然変異を実験的に検討できるようになった. 神経芽細胞腫には染色体数が3n領域にある一群の腫瘍があり, これらにはNーmycの増幅や染色体の構造異常がなく, また治療の予後も格段に良好であることがわかった. 造血系腫瘍では, 前白血病変に高率に#5,#7染色体の全部あるいは一部の欠失が認められ, 骨髄幹細胞の増殖制御の変化を示唆している. 成人T細胞白血病の発症初期のT細胞にも14gllが関与する異常が特異的変化として認められ, 悪性化への重要な要因となっていることを示唆する. 濾胞性リンパ腫でbclー2遺伝子の構造変化を調べた結果, 日本人患者における14;18転座の切断点は本症の流行地である米国の患者の場合とかなり異なることがわかった. また, 9;14転座を持つリンパ腫細胞株KIS株で切断点の#9染色体側のDNAの単離に成功した. このDNAは他のリンパ腫でも発現されているが, KIS株では異常なサイズのmRNAとして発現されている. 新しい癌関連遺伝子としてその全構造の解明が待たれる. その他, すでに単離されている癌遺伝子7種をin situ分子雑種法により染色体上にマップした. いずれもその位置は癌に見られる特異的染色体異常の切断点に一致する.
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