研究概要 |
SV40の転写調節領域はDNA複製開始点を含み, T抗原違伝子の上流約300ーbpの範囲にあり, 眞核生物のそれのプロトタイプと言えるものである. 調節領域にある各種の信号(特定の塩基配列)に細胞蛋白やウイルス蛋白がくっついて, それらの相互作用で違伝子の転写と複制が調節されている. 研究目的はポリオーマウイルス群,アデノウイルス,動物細胞なでで調節にかかわる信号と蛋白を同定し, 癌違伝子の転写と複製のしくみを明らかにする事であり, その流れにそって研究は進められている. 成果のうち注目すべきものは次のとおりである. SV40によく以たヒトウイルスであるBKV(野生型)のエンハンサーは, 68ーbpの繰りかえし配列が3組あるのが特徴である. ところがこのBKVに細胞転換能がない. そこでBKVエンハンサーの働きを解析した. 68ーbpの繰りかえし配列は, BKV癌遺伝子の発現に対し, ヒト細胞では促進的に働くのに対し, ラット細胞では抑制的に働くことがわかった. さらにこの抑制効果は外来性遺伝子に対してはみとめられなかった. 以上の結果はBKVエンハンサーがそれ自身の塩基配列だけでなく, まわりのDNA塩基配列の影響をうけること, 多分微妙なクロマチン溝造変化で機能が大きく変ることを示している. このような例はまだほかの系で知られていない. 一方cーmyc蛋白が細胞DNA複製の開始にかかわることを前年度示したが, この蛋白がcーmyc遺伝子のエンハンサーにくっつく可能性が出てきた. つまりcーmyc蛋白が複製と転写調節の両者にかかわる因子である可能性があり興味深い. 今後の解析が期待される.
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