研究概要 |
癌におけるリソゾーム酵素蛋白のリン酸化の亢進は,蛋白キナーゼ(PK)を介した酵素の代謝調節の異常による可能性が極めて高い. これを明らかにするため, 1,酵素蛋白をリン酸化するPKの同定とリン酸化siteの解析2,PK活性を調節する因子の解析,3,癌細胞におけるリソゾーム酵素の代謝回転速度の変化について調べた. 1,精製アリルスルファターゼB(ASB)およびβーグルクロニダーゼ(BGV)はcAMP依存性PK(APK)によりリン酸化され, ASBはリン酸化ペプチドXを与える. 一方in vivoではXの他にYが検出され, このYは本来正常組織中の酵素中に存在する(0.6モル1分子)と見られることからXが癌関連リン酸化siteであり,癌で亢進するAPKによってリン酸化されている. この現象は白血病細胞でも確かめられた. 次に,cGMP依存性,Ca依存性,カゼインキナーゼ,チロシンキナーゼによるリン酸化反応を試みたが, Yをリン酸化するPKを同定する事は出来なかった. 更に追究を要する. また,肺癌組織のAPKのRegulatory subunitを解析した結果,癌ではRIIが主成分であることからASBはAPKII型でリン酸化されることが明らかになった. 2,上記リン酸化反応に対してG蛋白質の関与の可能性を培養細胞で調べた結果,各々Gs,Giのリボシル化に関与するコレラ毒素,百日咳毒素は有効ではなかったが,Catalytic subunitに働くホルスコリンは癌,正常細胞共にASBのリン酸化を有意に亢進させた. 3,培養ヒト癌細胞と非癌細胞について,リソゾーム酵素(ASB,ASA,βGU,カテプシンD)の代謝回転速度を調べたところ, 癌で速い成熟化が起り,かつ寿命は長い酵素が多かった. これはELISA法によって得た肝癌組織のカテプシンD酵素蛋白の増量の事実を裏づけるものである. リソゾーム酵素の代謝課程における蛋白のリン酸化の意義について, 更に追究する必要があろう.
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