研究概要 |
HTLVーIによるT細胞腫瘍化機構の解明を目的とした本研究において以下の成果が得られた. 1.HTLV・pX遺伝子発現プラスミドをヒトT細胞株(Jurkat)に導入し, 安定なpX導入細胞クロンを得た. これら細胞においてpX発現とILー2受容体(p55ならびにp75)発現との関係を調べた処, pX発現とp55発現とはsingle cellレベルで一致した. 即ち, pX産物(p40^<tax>)によるp55発現誘導は細胞外に産生される因子等を介することなく, p40^<tax>が直接細胞内でp55発現を促進していることが分った. さらに, p40^<tax>発現に伴ってp75発現も著明に促進された. 以上の結果から, HTLVーI感染T細胞においてはp55と, p75の両サブユニット発現が促進され, それらによって高親和性ILー2Rの発現があり, これら感染細胞はILー2依存性に増殖可能となるものと推察された. 2.HTLVーI感染ILー2依存性T細胞株(ILTーMat)から得られたTPA依存性細胞株(TPAーMat)の解析から次の結果が得られた. TPAーMat細胞におけるTPA依存性増殖はForskolinによって強く抑制されたが, ILー2依存性増殖はForskolinによって殆ど抑制されなかった. 即ち, ILー2Rからの増殖シグナル伝達系とTPAによるCキナーゼを介した増殖シグナル伝達系とは異なる可能性が示唆された. ILー2Rからのシグナル伝達系にはCキナーゼを介する系とCキナー-ゼを介さない系が存在することが推察された. HTLVーIによる細胞腫瘍化機構を理解するためにはこれら増殖シグナル伝達機構についてさらに解析する必要がある. 同時に機能を担うILー2R p75の分子レベル, 遺伝子レベルでの解析も必要と考えられる.
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