研究概要 |
ヒト胎児組織におけるLe^x抗原群の出現パターンの検討から,抗原の出現は器官の分化を反映している事が示されたが,一定の分化段階に達しない組織においてはその発現は認められなかった. そこでLe^x抗原の前駆体としての構造を有するParagloboside及びCDHの出現をも検討に加え,一連のType2糖鎖抗原発現の動きを詳細に解析した. 器官としては,形態学的に器官,小器官の分化段階を容易に判定し得る事,腫瘍の殆んどが近位尿細管細胞に由来するという一元的性格を有する事等から,ヒト腎臓を用いた. MーAbはT_5A_7(αーCDH)1B2(αーparagloboside),FH2(αーLe^x),HF4(αーdifucosyl Le^x),FH6(αーsialosyl Le^x)を用い,連続切片の免疫組織染色を行った. その結果,予想された如く,CDHのような単純な構造を有する抗原は,Le^x抗原群の出現する以前の分化段階より出現する事,そして構造の複雑な抗原程,分化が進んでから出現する事が確認された. そこで,ヒト腎にみられる分化段階と抗原消長との相関が,腎腫瘍にも反映されているか否かを50例の腎腫瘍症例において検討した. その結果,単純な構造の抗原程出現率が高く,抗原がfucoseを有するか否か,sialic acidを有するか否かで出現率は大きく異なり,腫瘍化におけるfucosylationやsialylationの重要性がここでも確認された. また, 抗原消長のいくつかは病理組織学的grade分類と相関した. さらに,paraglobosideとsialosyl Le^xの出現の有無は,患者の予後と深く相関した. 以上より,器官の分化を示すparameterとしての糖鎖抗原は,その組織に由来する腫瘍組織においても分化の段階や方向を反映して出現している事が示された. さらに,ここより得られる情報は,腫瘍の悪性度の判定,予後の予測にも有用であり,広く臨床面への応用が可能である. 現在のところ腎腫瘍組織より抽出した糖脂質のTLCパターンからは腫瘍特異性抗原は得られておらず,なお検討を進めつつある.
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