研究概要 |
癌化学療法を施行する上で, 最大のネックとなっている副作用を回避, 軽減し, 効果の増強に資する目的で, 薬剤耐性を示す外来性の遺伝子を正常骨髄に移入, 発現させ, より多量の抗癌剤を与え得るか, 否かについて検討を加えている. まず, methotrexate(MTX)に対する耐性を高め, かつ細胞増殖に必須の遺伝子である, ジヒトロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子のcDNAを発現ベクターであるpSV2に組み込んだ. このように処理したDHFR遺伝子を, マウスNIH3T3細胞にトランスフェクトレ, MTX耐性と思われるクローンを得た. このMTXに耐性を示すNIH3T3細胞とwild typeのNIH3T3細胞のMTXに対する感受性を調べたところ, IC_<50>は, 前者が2.2×10^<-6>M, 後者が10^<-8>Mで, DHFR遺伝子をトランスフェクトした細胞が約50倍のMTX耐性を示した. 現在この遺伝子を正常骨髄細胞にトランスフェクトし, X線照射したマウスに移入し, DHFR遺伝子の発現状態を検索中である. また外来性遺伝子導入による細胞耐性化機構を明らかにする目的で, 細胞膜結合性GTP結合蛋白質の活性化および各種プロテインキナーゼによる細胞内蛋白リン酸化を指標として, 細胞変化を生化学的に解析した. その結果, 遺伝子導入により, (1)細胞耐性化がおこる以前にカゼインキナーゼによる分子量98K蛋白質およびプロテインキナーゼPによる分子量53K, 41K, 35K蛋白質のリン酸化が著しく促進する. (ii)遺伝子導入後直ちに, NDPーkinaseによるGTP結合蛋白質の活性化が認められた. これら生化学的変化は, 導入遺伝子種, その発現量に相関し, しかも遺伝子導入後3時間以内に検出された. 従って, これらの遺伝子導入による細胞耐性化は, 遺伝子導入によって誘起される特異的な細胞変化であると考えられた.
|