研究概要 |
マウス白血病ウィルスにより腫瘍化した造血細胞は, 主として幼若細胞の分化段階に固定され細胞因子やマイトーゲン非依存性に増殖を続ける. これらの細胞に分化を導入することはわずかの例外を除いて困難であり, この事実は腫瘍発症が幼若細胞にあらかじめプログラムされた分化・成熟の機能の発現を抑制することを示唆する. しかし分化と腫瘍化がどのような接点で相互に関連するかは不明であり, 白血病ウィルスがん遺伝子発現を契機として標的細胞内に誘導される腫瘍発症の機構を知る上でこの問題の解決は重要である. この問題にアプローチするために, 我々は, 我々が単離したAbelsonマウス白血病ウィルス(AーMuLV)由来の温度感受性変異株(ts変異株)を用いて, 幼若Bリンフォーマ株を確立した. この細胞に温度シフトによる分化を導入し, 腫瘍細胞から分化可能な細胞へ変化する際にどのような遺伝子の活性・非活性が関与するか, またこの細胞の分化で誘導される免疫グロブリンの発現をモデルに, 腫瘍化に伴う分化関連遺伝子の発現抑制機構の有無を検討した. 更にts変異株AーMuLVの物理化学的性状を解析し, ウィルス遺伝子のクローニングと単離を試みた. この結果, 1)幼若Bリンフォーマでの脱腫瘍化と分化誘導に関連してその発現が増強する2つの遺伝子クローンを単離した. 2)幼若Bリンフォーマでの免疫グロブリン(Ig)遺伝子発現の制御が遺伝子転写レベルで誘導される可能性が示唆された. 3)AーMuLV由来ts変異株遺伝子産物の物理化学的性状が温度感受性に変動することが確認された. 4)ts変異株ウィルス遺伝子クローンを単離し, その構造解析を開始した. また脱腫瘍化・分化に関連して非活性・活性される遺伝子クローニングの効果と効率をあげるために, 新しいサブトラクション法のシステムの開発を行なっている.
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