研究概要 |
ホルモン作用により細胞増殖が制御されている例は非常に多く, 我々もまたヒト乳脂肪球皮膜のガングリオシド組成にホルモン依存性変化と思える特徴的な変動を認めた. 脂肪球皮膜はプロラクチン等のホルモンにより増殖と分化がコントロールされている乳腺上皮そのものであるが, その糖脂質組成を解析すると大きな特徴が酸性糖脂質ガングリオシド組成に見られた. お産後6日までの初乳ではGD3が100%を占める成分であるのに対し, 7日目からの移行乳の時期ではGD3が徐々に減少し, 相補的にGM3が増加し, 常乳に達するとGM3が100%を占める成分となった. この糖脂質組成の完全な変化は, 初産経産を問わず, また固体差が見られないため, 授乳期間を決定する分子的マーカーになっている. おそらくGM3にシアル酸を転移する活性がホルモン作用によって抑制される結果, このような変化が見られると思われる. また常乳期に発現されるGM3はEGF依存性EGF受容体分子のリン酸化を阻止し, 当該細胞の増殖を抑制する活性があるため, 乳腺上皮での細胞分裂を抑制する働きもしている可能性が高い. 乳癌細胞においては常に初乳期と同様のパターンを示し, 人為的にノイラミニダーゼにより細胞膜表面のシアル酸を除くとヌードマウス皮下での細胞増殖は抑制された. in vitroでGM3を培地に添加するとグリコーゲン蓄積を阻止する活性も認められた. 一方, ヒト子宮内膜癌もホルモン作用と細胞表面糖脂質に相関がある. 正常内膜の増殖期と分泌期の糖脂質を比較すると分泌期にスルファチドが選択的に増加しており, 硫酸基転移がホルモンにより支配されていることを予想させる結果であった. おそらく, プロゲステロンの作用が重要であると思われる. 子宮内膜癌では硫酸化脂質の選択的増加が著明であり, ヒト乳腺と子宮というホルモン作用を受ける組織の特定の時期に発現する抗原は癌化した細胞と共通点が多いことが明らかとなった.
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