研究概要 |
癌の発生にはその個体のもつ遺伝的感受性が関与すると考えられている. 実験室系マウスに発癌物質を投与すると, 生じる癌の発生頻度はマウスの系統により著しい差を示す. 本研究は肝癌の発生に関与するHcs遺伝子を主たる対象とし, この遺伝子と密に連鎖する多型性DNAプローブを単離し, この遺伝子の実在性と遺伝性を明らかにしようと試みた. C3H/HeとB6マウスを親とし, そのF1のオスをB6のメスに交配し, N1マウス40匹を得た. 生後3週のオスの20匹にDEN(ジエチルニトロソアミン)を100p.p.m.残りの20匹に50p.p.m.を飲料水に混ぜ飲ませた. 100p.p.m.では1ヵ月以内にその1/3が死んだので,以後50p.p.m.で実験した. 途中3ヵ月目に肝癌の発生を確認した(癌研病理, 北川知行博士との共同研究). 2ヵ月または3ヵ月DENを投与し, その後3ヵ月飼育したN1マウスから肝臓と腎臓をとり出し, 腎臓からはDNAを抽出し, 肝臓は癌病巣の数を測定した. 以前のDrinkwater氏らの実験(1986)では腫瘍の数にばらつきが認められ, その数がHcs遺伝子の分布と関連があるとされていたが, 我々の結果では期待ほどのばらつきは観察されなかった. 調べたN1マウス29匹中, 大きい(2mm以上)腫瘍が多数発生しているマウスは3匹,全く腫瘍のないものは3匹であった. 前者の遺伝子型をHcs2+,後者を2-と考え, 2+には存在し2-には存在しないようなDNAマーカーをDNAフィンガープリント法で見い出せるかどうかを検討した. 親株のC3H/HeとB6のゲノムの多型を検出しうるバンドをDNAフィンガープリント上に12本見い出した. しかし, 現在までのところこの中で高発癌マウスと低発癌マウスとを識別しうる連鎖マーカーは見い出されていない. 更に多くのN1マウスと, ミニサテライトプローブを組み合せ, 実験して行く必要がある.
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