研究概要 |
パポーバウィルスT抗原はウィルスDNA複製と転写の両因子であり, 細胞トランスフォーメーションにあたっては細胞内の同様の機能を持つ因子と相互作用をするものと考えられる. その細胞内因子について次の事が判明した. 1.Cーmycタンパク,Nーmycタンパク,p53が細胞DNA複製開始タンパクであることを明らかにし, それに対応する細胞DNA複製開始部位を単離した. 2.Cーmycタンパクは機能上,SV40T抗原に類似しており, SV400NA複製系においてT抗原と互換性があることを示した. 3.Cーmyc遺伝子の等一エクリン上流2000塩基対付近には, Cーmycタンパク結合域が存在し, そこは同時に複製開始部位とコンハンサー領域が共存していた. このことから, Cーmycタンパクは複製開始タンパクであると同時にエンハンサー結合タンパクであることがわかった. 4.CーmycタンパクはCーmyc自身の発現を正,負に自己制御していた. 5.Cーmycタンパク結合域と相補性のあるDNAクローンとして熱ショックタンパク(HSP70)遺伝子がフローニングされた. これより, HSP遺伝子はCーmycタンパクの直接の作用部位で, Cーmycタンパクがエンハンサー結合タンパクとして転写促進するものと考えられた. 6.HSP70はCーmyCタンパクを中心とするDNA複製系の開始反応に関与するタンパクらしいという結果を得た. 7.Cーmyc遺伝子上のDNA複製開始部位クローンを授精卵に注射しトランスジェニックマウスを作製したところ, このクローンは染色体外で複製し, 子,孫マウスにも伝播した. このことより, Cーmyc遺伝子上の複製開始点の存在は個体マウスでも証明された. このようにCーmycタンパクを中心とする転写ー複製系が存在するらしく, 今後の発展が期待される.
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