研究概要 |
ras発癌遺伝子産物p21と相互作用を示す因子の同定およびp21の生化学的性質の検討を行ない, 以下に記す結果を得た. 1.p21と直接に相互作用を示す因子としてp21のGTPase活性を顕著に促進する活性を見出した. この活性は, 正常型p21に特異的であり, 変異型p21に対しては効果を示さなかった. 実際に細胞内でp21に結合しているヌクレオチドを分析したところ, 正常型p21はほとんどGDPを結合しているのに対し変異型p21ではGTPおよびGDPの両者を結合しており, 試験管内で得られた結果と一致した. 促進活性の組織特異性とp21の発現量との間に相関関係が認められ, p21の活性を制御している可能性を示した. また細胞増殖との関連性を検討したところ, 促進活性は培養細胞密度に比例して増加し, この活性が正常細胞の密度依存性成長停止に関与することを示唆した. 2.p21のヌクレオチド交換反応について調べ, 単クローン抗体Y13ー259がこの反応を完全に阻害することを見出した. この抗体は, 細胞内に微量注入した際にp21の機能を抑制することから, p21がこの反応により再活性化されることを示唆した. 59番目のアミノ酸がスレオニンで置換されたp21は交換反応が著しく早く, 再活性化され易いことを示した. 硫酸アンモニウムおよびEDTAが協同的に交換反応を促進することを見出し, 両者の存在下のゲルろか法によりヌクレオチドを結合していないp21を得ることに成功し, グアニンヌクレオチドとの相互作用を詳細に検討した. 3.グアニンヌクレオチドの誘導体を用いた親和性標識によりp21のヌクレオチド結合中心構造を一次構造のレベルで決定し, アミノ末端より16番目のリジン残基がヌクレオチドのリン酸基と近接した位置に存在することを明らかにした.
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