研究概要 |
酵母(Saccharomyces cerevisiae)においてRAS遺伝子産物がアデニレートシクラーゼ活性をGTP依存性で制御していることを遺伝生化学的に解析してきた. また哺乳動物で見だされたようにイノシトールりん脂質が重要で役割をはたしていることが示唆されている. そこで酵母を用いて遺伝生化学的にイノシトールりん脂質の細胞増殖における機能を明らかにすることを試みた. PI代謝に関しては全く未知の生物であるので, PI代謝系の酵素活性の測定法を確立した. PIからPIPを合成するPI kinose,PIPからPIP_2を合成するPIP kinose,さらにこれらの逆反応を行うホスファターゼの活性測定が可能になった. 次に遺伝学的にアプローチするにはPI代謝に関与する突然変異株を分離する必要がある. そこでイノシトールりん脂質代謝で最も重要であるPIP_2に対するモノクローナル抗体を調製した. この抗体を電気穿孔法で酵母細胞を処理すると, その細胞増殖が一時的に停止することがわかった. この性質を利用して, PIP_2に異常がおこったと思われる突然変異株を多数分離した. これらの株の遺伝学的解析により, 少なくとも6種に分けることができた. これらのグループの中にはPI kinoseあるいはPIP kinoseが異常になったものが見だされ, これらの細胞にPIP_2を電気穿孔法で導入すると細胞増殖が回復することがわかった. これらの結果からPIP_2が細胞増殖に必要であることがわかった. さらにRAS遺伝子産物はアデニレートシグラーゼを介して, 細胞らcAMP濃度を調節しているが, cAMP依存性プロティンキナーゼはPI kinoseおよびPIP kinoseをりん酸化し, その活性を上昇させることも明らかにした. この結果はcAMP βスケードがPI β又ケードVEに調節していることを示している.
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