研究概要 |
ヘマトポルフィリン(Hp)のアセチル誘導体は担がん動物やがん患者に投与されるとがん組織に蓄積し, レーザー光の照射によりがん組織の著明な壊死が観察されるので, これを利用した治療法が注目されつつある. トミコンドリアにポルフィリン誘導体が蓄積しやすいこと, およびミトコンドリアにポルフィリン誘導体を加えて光照射すると脱共役作用が起こることが認められている. この作用が光励起ポルフィリン誘導体ががん細胞の壊死を起こす本能である可能性が考えられるので, その作用機序を検討した. ラットの肝ミトコンドリアをリン酸緩衛液中に懸濁し基質としてコハク酸を与えた後, Hpを加え白色光を照射すると脱共役が起こるが, エオジンー5ーマレイミドやNーエチルマレイミド(NEM)はその脱共役作用を阻害した. エオジンー5ーマレイミドはミトコンドリアの内膜を通過しにくいため, 細胞質側にあるリン酸/水素イオンーシンポーターのSH基を修飾することが知られているが, Hp存在下での光照射後ではこのSH基がエオジンー5ーマレイミドの修飾を受けることができないことが判明した. さらにESRを用いて, 光照射を受けたHpにより発生した一重項酸素とアミノ酸との反応を検討した. Met, His, Trp, Cysなどの一重項酸素と反応することが知られているアミノ酸のうち, アルコールを含む緩衝液中では, Cysが一重項酸素と最もよく反応することが判明した. 以上の結論としては, Hpの光照射により生成した一重項酸素が酸化的燐酸化に関与するSH蛋白質, 例えば32kDのリン酸/水素イオンーシンポーターのSH基を酸化し, シスチンまたはシステイン酸を生じ, このタンパクの構造を変化させ脱共役を起こす可能性が考えられる. この脱共役作用は低濃度のHpで起こるので, 制がん作用の本態である可能性が強く示唆された.
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