研究概要 |
成人T細胞白血病(ATL)はヒトレトロウイルス(HTLVーI)に感染した多クローン性のヘルパー型T細胞が長い時間経過の後,単クローン性増殖に収歛することによる成り立つと考えられる. ATLの白血病細胞にはT細胞増殖因子(インターロイキン2;ILー2)の受容体が異常発現していること,ATLからILー2存在下でHTLVーI(+)のヘルパー型T細胞株が高率に樹立され得ること,などからATLの成立にはILー2/ILー2受容体系が重要な役割を果している可能性が強く示唆される. しかし大半のATLでは白血病細胞はILー2の高親知性受容体を発現しているにもかかわらずILー2には反応しなかった. 一方これまでわれわれはATL4症例で白血病細胞がILー2依存性増殖することをT細胞受容体β鎖遺伝子の再構成に基づくクローン解析により明らかにした. 1例では長期間培養中ILー2依存性を離脱しILー2の高親和性受容体を発現したままILー2反応性を消失し大半のATL症例の白血病細胞様になった. 以上の実験事実からATLが,T細胞のILー2依存性増殖による単クローン性増殖→ILー2非依存性増殖,という段階的過程を経て成立するとの作業仮説を立てた. 本研究課題ではこの仮説の妥当性を立証することを主目的とした. その結果,次の点を明らかにした. 1)慢性型ATL症例を3年間にわたり追跡研究し5回の試みすべてでILー2依存性増殖するATLの白血病細胞の存在を確認した. 更に中4回ではILー2非依存性増殖する白血病細胞株が得られた. しかし生体内で白血病細胞の増殖性の段階的進展を立証はできなかった. 2)ILー2非依存性の白血病細胞株がもう1例のATLから分離された. 3)ILー2依存性増殖からの離脱がILー2以外のリンホカインを介するオートクライン機構で生ずる可能性をノザン法により検討中であるが,現在まだその可能性を示す結果は得られていない.
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