研究概要 |
癌細胞がもつ異常な増殖性の機構を解析するための一つの方法として, 正常細胞と癌細胞における増殖阻害因子の生産, および, それらの作用について検討した. 正常ラット由来の上皮性肝細胞株BRL, および, BRLをラウス肉腫ウイルスで形質転換して得られた腫瘍細胞RSVーBRLを無血清培養液中で培養し, 細胞内と細胞外の増殖阻害因子を分析した. その結果, BRLの1M酢酸抽出液にはRSVーBRLに比べて約10倍量の酸可溶性増殖阻害因子が存在することが分かった. この増殖阻害因子(GIーI)はBRLの増殖を強く阻害するが, RSVーBRLに対しては殆ど阻害活性を示さなかった. BRLとRSVーBRL細胞はGIーIを分子量数十万の不活性な複合体として細胞外に分泌しており, その活性は1M酢酸(pH2.3)の処理によって約100倍に増大した. 一方, BRLとRSVーBRLは, GIーIと異なり, 両細胞に対して等しく増殖阻害活性を示す他の増殖阻害因子(GIーll)を活性な状態で細胞外に分泌した. RSVーBRLの無血清培養液から, 種々のクロマトグラフィとゲル電気泳動法を用いて両因子を完全に精製した. GIーIは2個の同一サブユニットからなる分子量26kの蛋白質で, pl7.0ー9.3の少なくとも5種のplアイソマー(主成分はpl9.3)を含んでいる. 一方, GIーllは1個のサブユニットからなる分子量45k, pl4.7の蛋白質であった. GIーIは酸に安定, 還元剤に不安定で, 既知の増殖阻害因子であるTGFーβと類似しているが, GIーllは酸に不安定, 還元剤に安定な因子で, 全く新種の増殖阻害因子である可能性が高い. 培養液中に分泌された増殖阻害因子は全体としてRSVーBRLよりもBRLを強く阻害する. このような増殖阻害因子の選択性が生体内での両細胞の増殖性の差異に関係する可能性が考えられる.
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