研究概要 |
イノシトールリン脂質リン酸化酵素(PIキナーゼ)とチロシン特異的タンパク質リン酸化酵素(チロシンキナーゼ)との相互作用を明らかにするため, 2つの材料からPIキナーゼを分離し解析した. 1つは, ラウス肉腫ウイルスでがん化したマウス細胞からp60^<vーsrc>と共に得られるPIキナーゼであり, もう1つは, シビレエイ電気器官のアセチルコリン受容体(AchR)膜にあって, やはりp60^<vーsrc>類似のチロシンキナーゼと共存しているPIキナーゼである. シビレエイのPIキナーゼは, DEAEセルロースカラムクロマトで2成分(IとII)に分離され, そのうちのPIキナーゼIIがp60^<vーsrc>に付随して得られるPIキナーゼとキネティックパラメーターがよく一致していた. ゲル3過によるそれぞれのみかけの電子量は, p60^<vーsrc>に付随したPIキナーゼが52KDa, シビレエイのPIキナーゼIが150KDa, PIキナーゼIIが650KDaであった. これらのPIキナーゼに対するチロシンキナーゼの影響を調べる目的でチロシンキナーゼ阻害剤を用いた実験を行ったところ, PIキナーゼ自身が阻害を受けることを見出した. 阻害剤としては, isoflavoneのgenisteinとp60^<vーsrc>中のケラチンとの相同部位に相当する合成ペプチド(pepA)を用いた. pepAは, p60^<vーsrc>やEGF受容体/キナーゼ, また, AchR膜の内在性チロシンキナーゼを阻害するが, AキナーゼやGキナーゼは阻害しない. genisteinによるPIキナーゼの阻害は弱かったが, pepAによる阻害は強く, 特にシビレエイのPIキナーゼIは, 50μMのpepAによって完全に阻害された. p60^<vーsrc>に付随したPIキナーゼは, pepAによる阻害パターンにおいてもシビレエイのPIキナーゼIIとよく似ていた. これらの結果は, PIキナーゼとチロシンキナーゼの間になんらかの構造的類似性があることを示唆している.
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