研究概要 |
細胞の癌化機構を理解する上で, 細胞増殖因子による細胞性癌遺伝子の発現制御機構と細胞増殖因子の受容伝達機構における癌遺伝子産物の作用機構とを解明することは必須である. 私共は本研究により, CキナーゼがCa^<2+>やcyclic AMPと共にある種の細胞増殖因子の細胞内伝達系としてcーmycやCーfos遺伝子の発現を促進し, その結果, 細胞を細胞周期のG0期からG1期へ移行させることを明らかにした. また, Cキナーゼはこのような細胞増殖促進作用以外に, 細胞増殖因子によるホスホリパーゼC反応に対してフィードバック阻害をかけることや, ある種の細胞ではG1期からS期への進行を抑制することも見出し, 本酵素は細胞増殖を正と負の二方向性に制御していることを解明した. さらに, 最近, Cキナーゼには4種類のアイソザイムが存在することが解明されているが, 私共は核遺伝子へ情報を伝達するCキナーゼと細胞膜機能を制御するCキナーゼのアイソザイムは異なっている可能性も明らかにした. 一方, 私共はras癌遺伝子産物(ras p21)の作用機構についても解析を行ったが, 従来ras p21がホスホリパーゼC反応を直接活性化することが示唆されたきたのに対して, 私共はras p21は間接的にホスホリパーゼC反応に作用している可能性を示唆した. 私共はまた, cーras p21の精製を試み, 本蛋白質をウシ大脳から単一蛋白にまで精製した. さらに, この精製過程で, cーras p21に類似している分子量2.0ー2.5万のGTP結合蛋白質を9種類以上分離し, そのうちの4種類の蛋白質を単一蛋白質にまだ精製した. これらの蛋白質の遺伝子は巨大なgene familyを形成し, 種々の細胞機能の制御に関与していると考えられ, これらの蛋白質の機能を解明することは, ras p21の作用機構の解明につながるものと期待される. 以上, 本年度は予想以上の研究成果を達成することができた.
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