研究概要 |
我々は最近, 肝炎,肝癌を自然発症する遺伝性肝炎ラット(LECラット)を開発,樹立することに成功した. この動物は特別な誘因もなく, 生後4ヶ月頃に突然重症の黄疸を発現し, 約半数は亜広汎肝細胞壊死で死亡するが, 残りの半数は長期生存し, 1年半を過ぎると全例に肝癌の発生をみるものである. 肝細胞壊死の原因としては, ヒトのHBVのようなウィルスは検出されていないが, LECラットはヒトの劇症肝炎の発症や, 肝炎から肝癌への進展に関する貴重なモデル動物である. そこで, このLECラットを用いて肝細胞障害の発生機序や, 癌化機構について研究した. 1)肝細胞壊死に関連して:LECラットの肝細胞壊死は, 単一の遺伝子に支配され, 常染色体性劣性遺伝形式に従うことが明らかとなった. 肝炎発症ラットでは, 組織学的に肝細胞の核と細胞質の巨大化が特徴的である. 電顕的に異常な物質の蓄積はみられない. 肝細胞の脱落がみられ, 一方では肝細胞の細胞分裂像がみられるにもかかわらず, 肝細胞が巨大化することから, 肝細胞の分裂障害が推定された. そこで肝細胞を単離し, DNA量を測定したところ, 2倍体の累乗倍に増加しており, 細胞分裂障害の起っていることが明らかにされた. こうした障害が肝細胞壊死とどの様な関連をもつかについて, 生化学的,分子生物学的に検索しているところである. 2)肝発癌に関連して:生後4ヵ月以降, 肝炎を発症しても生存し得たラット肝には, 化学発癌過程と同様の酵素偏倚巣が認められ, 加令と共に増大する. 1年半以降では全例に肝癌の発生をみることから, このLECラットは高発癌性の系統であると考えられる. そうであるならば, 短期間少量の発癌剤投与により, 前癌病変,癌をより早期に,より高率に形成することができる筈である. 予備実験ではこれを示唆する所見が得られており, 本実験を継続中である.
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