研究概要 |
ヒト自家癌の特異的な免疫学的破壊のメカニズムの解明は腫瘍免疫学の大きな目的である. この目的に不可欠なキラーT細胞クローンと自家腫瘍細胞の株化に我々は成功したが, 今年度はこの自家乳癌細胞(HMCー1ー8)に発現され, キラークローンTcHMCー1のT細胞抗原レセプターにより認識されると思われるHMCー1ー8腫瘍特異抗原の解析を中心に進めた. HMCー1ー8をマウスに免疫して得られた単クローン抗体(Mab)3A2はMHC class I,IIを有するRadi細胞,あるいは乳癌細胞株HMCー2,R75ー1を含めた多くのallogeneicな腫瘍細胞株とは反応せず, HMCー1ー8に極めて強く反応した. ただ, 大腸癌株M7609に弱陽性ながら反応を示した. 更に3A2はHMCー1ー8を前処理することによりTcHMCー1のHMCー1ー8標的細胞に対する特異的細胞障害を強く抑制した. しかし, コントロールのMabとして用いた11B4,3c6はその効果がなかった. これらの抗体はHMCー1ー8を含めた他のallogeneicな腫瘍細胞と広く反応を示した. 一方, TcHMCー1ーHMCー1ー8のペアはDKT3,DKT8およびMHC class Iに対するMabでその細胞障害活性が阻止されることを我々は既にみている. 以上の事実は, 3A2により規定される抗原分子は, HMCー1ー8の細胞表面に極めて限局して発現し, 非MHC class IおよびII産物であり, かつTcHMCー1上のT細胞抗原レセプターにより認識されるものであることを強く示唆している. 更に, HMCー1ー8が由来した原発乳癌組織を3A2を用いて免疫組織化学的に検索したところ, 患者の乳癌細胞に強く抗原の局在を認め, 一部は腺管内腔にも陽性所見をみた. 一方, 同一患者の正常乳腺組織には全く3A2との反応を認めず, この抗原がin vivoでも腫瘍特異抗原として存在していたことが示された. 分子量は最終的には決定されていないが, かなりの高分子糖タンパクであることが示唆されている.
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