研究概要 |
1.動物実験:シスプラチン(CDDP)やアドリアマイシン(ADR)についてその毒性軽減法を検討し, メタロチオネイン(MT)合成誘導剤である次硝酸ビスマス(BSN)がこれらの制癌剤の抗腫瘍性を損なうことなく副作用のみを効率よく軽減することを明らかにしてきた. 昭和62年度の研究では, MT合成誘導剤の投与によって代謝拮抗剤である5ーフルオロウラシルの致死毒性及び骨髄毒性, さらにアルキル化剤であるサイクロフォスファミドのマウスに対する毒性, 並びに放射線の致死作用が軽減されることが明らかとなった. また, ADRによる副作用の標的臓器, 心臓での脂質の過酸化がMT合成誘導剤の前投与によって抑制された. このとき心臓中では, 生体内過酸化防御効果が期待される他の生体内因子(スパーオキサイドディスムターゼ,カタラーゼ,およびグルタチオンペルオキシダーゼの活性ならびにグルタチオン濃度)には変化が認められず, MT濃度のみが増加し, しかも脂質過酸化の抑制程度と有意な相関が認められた. この事からADRの毒性軽減にはMTが重要な役割を果している可能性が強く示唆された. 2.培養細胞を用いた研究:100μM Cd添加培地中で継代することにより得たCd耐性細胞株(Hela^r_<100>:MT濃度はCd感受性細胞の約180倍)は, 検討した作用機構の異なる5種類の制癌剤のうちビンブラスチンを除く4種の制癌剤(CDDP,ADR,メルファラン,ペプロマイシン)に対して, それぞれ感受性細胞の2,2,1.5,3倍の耐性(IC_<50>値)を示した. この耐性株においては感受性株に比較して制癌剤の取り込み量の減少は観察されず, また, MT以外のフリーラジカル除去因子の活性, 量においても変動は認められなかった. 以上の結果は, 制癌剤の細胞毒性軽減に於てMTが重要な役割を果している可能性を示している.
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