研究概要 |
増殖刺激の細胞表層での受容およびその情報が核まで伝達される機構の異常とくに蛋白リン酸化の異常が, 細胞の癌化と関連することが考えられている. 私達は細胞骨格が刺激伝達の媒体になる可能性を考えているが, これまでの研究で, 350kDおよび300kDの細胞骨格結合蛋白質が, 各種の増殖刺激後1〜2時間で最大にリン酸化され, リン酸化型がその後核内にも検出されることを見出した. 本研究の目的は, この高分子量細胞骨格結合蛋白質およびそれらと結合する中間径線維蛋白質を, 細胞内でリン酸化している酵素を同定することである. まず大量の腹水癌細胞から細胞骨格蛋白質を抽出精製したが, リン酸化反応の化学量論的解析のためには大量の基質となる細胞骨格蛋白質が必要であり, 細胞内含量が高く大量精製が出来た中間径線維蛋白質ビメンチンで実験を行った. 中間径線維蛋白質は不溶性線維を作りやすく生化学的解析に必要な実験系がなかったので, 第一に線維構造または可溶形を中性pHで安定に保つ条件を検討し, 試験管内再構成系を確立した. つぎに6種類のリン酸化酵素による試験管内でのビメンチンのリン酸化を検討し, cAMP依存性キナーゼおよびCa^<++>・リン脂質依存性キナーゼが有効であることを知った. そしてそれらの酵素でリン酸化するだけでビメンチン線維が脱重合すること, リン酸化された可溶形ビメンチンは重合できないこと, および脱リン酸化によって重合能が回復することを見出した. さらに培養細胞を同調培養し, DNA合成期または細胞分裂期にビメンチンがリン酸化されるペプチドを二次元ペプチドマップで決定した. 細胞分裂期にはビメンチンのリン酸化が増大するが, 精製ビメンチンが試験管内でリン酸化されるペプチド部位との比較により, AキナーゼオよびCキナーゼが分裂期細胞内で働いていることが示唆された.
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