研究概要 |
本研究の目的は第一に北極の雪氷圏の動態を, 現在の氷河の形成維持条件から比較検討すること. 第二に氷河掘削により得られた雪氷コアを用いて北極圏の寒冷環境条件の長期的変動を明らかにすることである. 初年度では海洋性気候下にある比較的低緯度(ノルウェー本土)と高緯度(スバルバード)地方の二つの氷河で熱収支, 涵養過程の比較観測を行うとともに, 氷河の全層掘削によって得られる雪氷コアについて, 降水量変動, 化学主成分, 微粒子分布などの解析を行い, 北極域の海洋性雪氷圏環境の地域的特性を明らかにする. 第一の調査地点のヨステダルス氷河(Jostedalsbreen)は, ヨーロッパ本土で最大規模の氷河で, その氷帽の頂部で, ノルウェー水資源エネルギー局(NVE)およびベルゲン大学と共同調査をおこなった. 雪氷ボーリングは, 47.2mで氷河を貫通した. 氷河の下は深さ10mの被圧された氷河下池となっており, 貫通と同時に氷河底部から5mまで水面が上昇した. 雪氷ボーリングコアの現場解析により, 電気伝導度は表層で高く下部で著しく低いという特徴が見られた他, 土壌粒子の遍在状態が認められた. 第二の調査地点であるスピッツベルゲン島北部のオスゴルド氷河(Asgard Fonna)源頭部は, 少ない積雪量のためスバルバールで最も平衡線の高度が高い地域である. 調査地点は, この氷河のドーム状頂部であったが, 積雪は表層50〜60cmのみで, それ以深は上積氷によって形成された氷河氷であった. ここでは, 雪氷ボーリング(85.6m, 基盤まで)とコアの現場解析を中心に調査を実施した. コア中には, 周囲の裸地からと思われる土壌粒子が特に60m以深で多く見られた. また, 団塊状の藻類がやはり65m以深で頻繁に出現した. 従って, この深さ付近の氷は, 小氷期(16〜19世紀)以前の温暖で降雪が少なく地表が現在以上に露出するような気候環境を示していると考えられる. また, pH, 電気伝導度の測定結果は, 表面から50m深付近まで, 特に30m深付近を中心に化学的に汚れており, 小氷期の気候環境を反映しているものと思われる. pHの最近の減少は, ノルウェーなどで深刻な問題になりつつある"酸性雨"の現象がスピッツベルゲンにも現われていることを示唆している. 今後, 持ち帰ったサンプルの分析を実施し, この地域の過去数百年の気候・環境変化を明らかにっしてゆく. また, 今後の第2, 3回の調査は, 当初の構想に沿って実施し, 北極圏の気候・環境変化の比較研究を進める.
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