研究概要 |
アラビア(ペルシア)湾に面する地域には, クウェート, イラン, カタール, アラブ首長国連邦, サウディアラビア, オマーン, イラク, バハレーンなどの国々が, 近年になって形成され, 最近は, ペルシア湾かアラビア湾かの呼称あらそいをさけて, たんに「湾岸諸国」あるいは「湾岸地域」とよばれている. 今世紀になってから, もっとも急激に近代化の進行した地域である. したがって, ここには, 狭義の文化ばかりでなく, 政治, 経済, 生態的なものも含めた広義の意味の文化融合と, 文化摩擦が, 劇的なまでに認められる. アラビア的イスラーム文化と, 西欧的近代化のもたらした物質文明との混合, 融合, 摩擦が見られ, 他方, イラン系, アラブ系, インド系住民, 出稼ぎ人, 土着民, その他多種多様の人間がいりまじり, 文化および社会の複合構造を呈している. この状況を, フィールド・ワークを通じて総合的に検討するのが本研究の目的である. 今回の研究は, 1980年代初めから現われた世界石油市況の緩和による石油価格の低迷と石油の輸出不振という「逆オイルショック」下にある湾岸産油諸国のおける日本の研究者による初めての現地調査となった. バハレーンは湾岸諸国の中では唯一の島国である. このバハレーンと対岸のサウジアラビアを結ぶ25キロメートルのコーズウェイが1986年11月に開通し, サウジアラビアとの間に新たな文化接触や物資の流通が発生し, 変容しつつあるバハレーンの生活環境の中で新たな要因となりつつあることが分った. 政治問題もからむこの要因について今後も慎重にフォローすることが必要と思われる. またバハレーンにおけるポスト・オイル対策の一環であるオフシヨマ・バンキングはようやく定着しつつあるものの今後の推移を見守ることが必要である. クウェートは湾岸諸国の中でもっとも統計類が整備されている国で, 今回の調査研究を通じて外国人出稼ぎ労働者の動向を含む人口統計を中心に入手した. 今後この統計の分析をすすめるとともにクウェート大学や湾岸研究所その他での討論や聴き取りとも対照して整理したい. クウェートは今後とも各種統計資料を使って分析を深めうる対象国である. アラブ首長国連邦は石油を産出するアブダビ, 海運業の歴史も長いドバイ, 山ずかながら石油の産出を始めたシャルジャなど7つの首長国からなる. 今回の調査研究はアブダビ, ドバイおよびシャルジャでライフヒストリーを収集し, 統計数学には現われない出稼ぎ労働者の諸問題にも光を当てる試をするとともに, 民衆の生活に根づいている巡礼祭に見られる社会関係の調査に着手した. 今後ライフヒストリーの聴き取り件数を増やし, 巡礼祭に関する調査を深める.
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