研究概要 |
アラビア半島東岸における前2千年紀までの先史・古代文化の成立過程及びそのメソポタミア, インダス両文明との交流を考古学的に解明することを目的とする. 本年度は, バハレーンに多数(一説に20万基)所在する先史時代の古墳のうち, ブーリ地区における古墳群の調査を地施した. この地区には数千基の古墳が知られており, 規模も様々であるが, その性格上の相違及び年代を知る目的で, 径9.4m, 高さ1.9mの小規模古墳1基(Rー1号)と径19.0m, 高さ4.0mの大規模古墳1基(Rー2号)の2例の発掘した. 不幸にしていずれも古い時代に盗掘に遭い, 副葬品は発見されなかったが, その構造を初めて明らかにすることはできた. 特にRー2号は「王墓」と呼ばれるものの一つで, 少数の報告例はあるものの, アルコーヴをもった複雑な堅穴系横穴式石室の構造を精確に報告したものは皆無であった. それゆえ我々の今回の調査によって, 前3千年紀におけるいわゆるバルバル期の葬制, 特に高塚式古墳の造営方法解明の糸口が得られたと言ってもよい. カタルにおいては前回予備調査において我々が発見した, 北西海岸のウム・アル・マア地区のケルン(積石塚)群の調査を実施した. 計8基の精査を行った結果, 英国隊, フランス隊が, 過去にカタル国内の他の地区で実施したケルン群の発掘成果に見られない成果があった. 過去の調査では見られなかった, 地下の埋葬主体部の型式が多数新たに検出されたのである. これによって, 今まで空白であった, カタル半島の前3〜2千年紀の事情を解明する糸口が, ようやく日の目を見たことになる. 今後さらに類例を蓄積することにより, バハレーンを中心とするバルバル文化と, オマン半島を中心とするウム・アン・ナール文化の中間に位置する, 新たな先史文化がカタル半島を中心に確認されることになると考えられる.
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