研究分担者 |
内藤 暁子 立教大学, 文学部研究センター, 非常勧職員
I.H Kawharu オークランド大学, 人類学部, 教授
青柳 清孝 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (90052224)
石田 寛 福山大学, 経済学部, 教授 (60033461)
|
研究概要 |
本研究はニュージーランドのポリネシア系住民であるマオリの部族文化変容の過程について, 文化人類学的・人文地理学的調査研究を行なうことを目的としている. 今回の研究はとくに次のような2つの視点から進められた. 1. 都市と少数民族:今日都市のマオリはこれまでのマオリ文化を基盤にしつつ都市適応のための戦略を模索しつつある. 本研究はこうした動向を経済, 政治, 社会, 精神の諸側面から考察する. 2. 汎マオリ主義とエスニッ・アイデンティティ:都市化にともなって, 汎マオリ主義の先駆けとなった2つの運動, キング・ムーブメントとラタナ教をとりあげる. 研究は目的に記載した通り, 都市と少数民族, および汎マオリ主義の2つの視点から行われたが, 今回の調査でとくに明らかになったことは, 部族主義の台頭であった. 現在単純な汎マオリ主義に代わって, 部族的連帯への動向が顕著にみられるようである. その理由として(1)もっとも直接的には政府のデボリューション政策があげられる. これはこれまでマオリ省が統括していた権限の多くを, 部族の長老たちに委譲しようとするものであって, 受皿となる部族側は, それらの機能を処理するための組織化に取り組んでいる. デボリューションそのものは歓迎されている一方, その裏付けとなる財源, 人材などの面で多くの問題を抱えているようにみえる. (2)また現在進行中であるワイタンギ訴訟による土地, 漁業権の返還要求もそれぞれ部族単位で行われている. 要求通り返還された場合の利用計画をめぐって, 部族長老を中心に討議が進められている. 3)マオリ文化ルネッサンスの中で, マオリの伝統的な親族組織の再評価もこの傾向を促進している. たとえば非行青少年を公的施設から部族ないし親族が引き取り, 更正させようとするマツア・ファンガイ・プログラムなどもその試みの一つである. 研究分担者の1人であるカファルは自らガティファツァ族の長老として, こうした部族化の動きを内部から考察するとともに, 現在もっとも審議の進んでいる南東のガイタフ族のワイタンギ訴訟専門委員の一員として, 何回もこの地を訪れガイタフ族の動向について観察した. その他の研究者たちはそれぞれの調査地で部族化の傾向を観察し, それらに伴って生ずる問題を把握した. 次回次降の調査の課題としては, 部族化と汎マオリ主義が今後どのように動いていくのか, また都市化の中で部族化がどのような形をとっていくのかという点に焦点を当ててきたい.
|