研究概要 |
民族生薬を人間と植物との相互関係からみると,認知利用薬物と換言することができる. そして認知の程度は各部族社会の形態によって異なる. 本研究は牧畜民のマサイ族,そして農耕民のキクュ,ルオー,カンバ,ディゴ族の5部族が用いる民族生薬について各部族ごとに植物基原,用途,利用方法などを調査し,これらの薬物が伝承医学の上で,どのような位置づけをされているかを学び,さらに科学的な方法でその薬効の真贋判定を行ない,これらの結果に基づいて現代医療への利用性を検討する,いわゆる薬物資源研究を第一の目的とする. 第2に,認知未利用薬物と思われるカシポリア属(ヒルギ科)植物について,ケニア国のアップランドヒル,チャニアリバー,エカラカラ,そしてクワレの各地区において生態調査および化学的予試験を行い,本植物が,利用可能な薬物となり得るかどうかを研究する. I.標本の検索及び研究打ち合せ:現地調査に入る前にパリー国立博物館及びキュー王立植物園標本館において,調査に関係する標本を検索することができ,またヒルギ科植物の研究者,Dr.フローレット氏と研究打ち合わせをすることができた. II.調査許可書の取得:現地(ケニア)入りしてから一週間内でケニア政府からの調査許可書を取得し,極めて順調に調査研究をスタートすることができた. III.民族生薬の調査研究:(1)ナイロビ市内,特にキコンバ地区に点在するキクュ,カンバ族の市場生薬を調査し,主な生薬を20種入手し,その用途,利用法について聴取調査を行った. (2)ゴングヒル地域でマサイ族の生薬調査を行い,その中でアカシア系の植物が比較的多く用いられている事実を知る. この有効成分としてタンニンを考えられるが,その他の成分を含め今後の分析研究が必要である. 本地域では30種程の生薬を入手でき,利用法についてもその一部を知ることができた. 生薬エキスをハチミツとともに暗所で醗酵し,飲料として使用していることがわかった. (3)ゴングヒルでもカンバ族の生薬は種類が多く,そのうち60種類の生薬材料を入手し,またその用途を調査するとともに,土名と,それに対応する基原植物を採集し調査することができた. (4)カロレニイ地域(モンバサ方面)におけるディゴ族の生薬調査で,約50種について用途,土名などを調査し,その生薬標本に対応する基原植物を入手し,その学名については現在調査中である. IV.カシポリア属植物の調査:Cassipourea malosana,C.celastroides,C.euryoides,C.gummifluaの4種について成分研究用試料と,その〓葉標本用試料を採集し,学名の同定を行った. 各植物の生育環境についても調査し含有成分との関連性に興味がもたれる. 尚,化学的な予試験を行った結果から,いずれの種類にも含硫アルカロイドが認められ,しかも,それぞれ異った構造の成分も含有されていることが明らかとなった.
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