研究概要 |
本研究は, アフリカ大陸の標高の異なるいくつかの熱帯性山地林で, 同所的に生息する霊長類間の共存様式,及び種間関係を分析することを目的とする. その主眼は各種霊長類の生活様式と森林構造との対応,種間の競合と共存の実態を調べ,霊長類の進化と適応放散の歴史における種間関係の意義を異なる学問分野から総合的に解明することにある. 昭和62年度の現地調査は,ザイール国の科学省と自然保護局,ルワンダ国の国立公園管理局の支持と協力のもとに実施された. 現地で収集した森林構造,各種霊長類の食性や採食様式,土地利用,個体密度や集団密度等に関する資料,霊長類の外部形態や体構造に関する資料は現在分析中であるが,今までに以下の結果を得ている. リザイール国の低地熱帯多雨林に生息するゴリラの生態が初めて明らかになり, ゴリラは食性から見て二次的な再生植生に適応していることから,第4紀に高山地帯から低地へ向けて分布域を拡大したという仮説がより確実となった. 2)ゴリラとチンパンジーは低地でも山地でもほぼ同じ個体密度で同所的に生息している. 両種は環境破壊が顕著な地域では,同じ食物を利用することが多く,環境破壊が見られていない地域でも頻繁に川辺林を重複利用していることが判明した. 3)カフジ地区においてチンパンジーが地中のハリナシバチの巣を掘り出すために使用した掘り棒を発見した. 掘り棒の使用はまだカメルーンに生息する別の亜種にしか認められておらず, シロアリなどチンパンジーが好んで摂取する動物食物種が少ない山地林生態系で独立的に発生した文化的行動様式と考えることができる. 4)調査域に同所的に生息していることが確認された9種の霊長類は,共通に地持する5種の果実以外はそれぞれ異なる果実を採食しており,また体構造や歯冠の計測からまず体のサイズと異なる食性によってすみ分けていることが推測され, 採食生態と体構造から見た霊長類の種間関係が明らかになりつつある. 今回の調査によって, ザイール国のイテベロ地区に本研究を推進する上で最適な調査基地を設営する目処が立ち,科学省と自然保護局の合意を得ることができた. 今後は対象となるゴリラ,チンパンジー,及び他種霊長類の集団を定め,採食生態や集団内外の個体関係について集中的な調査を行なうつもりである.
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